文体に慣れるまで時間を要する。しかしながら、リズムをつかんでしまえば一気に読み進める。文学性の薫り高い傑作ミステリ。
カルト教団に別れた妻を殺されたボブが主人公と思いきや、元ジャンキーのケイスが主役だった。
「彼女は17年もカルトのメンバーだった。そして、ヘロイン中毒患者で、今はその治療中。それが彼女よ」
「彼女は信用できる人間なんだろうか?」
「彼女は聖人じゃない。でも、政治家でもないわね」
【『神は銃弾』ボストン・テラン/田口俊樹訳(文春文庫、2001年)】
そして、ケイスは人間だった。それも本物の人間だ。読み進むほどにボブがダメ男に見えてくる。そう。ボブが体現しているのは読み手である私やあなたなのだ。ケイスに常識は通用しない。彼女は“自分のルール”に従うだけだ。市民が法律を守ろうとするよりも、はるかに崇高かつ堅固な姿勢で。
登場する人物は皆傷だらけだ。まるで、血まみれにならなければ互いの温もりを感じ取れないかのように。しかし、距離を置きながら微温的な態度に終始する我々の日常に、果たしてどれほどの情感が通っているのだろうか。瞳を閉じて闇を見つめなければ、世界の本当の姿を知ることはできない。
・カルト教団のリーダーvsキネシクス/『スリーピング・ドール』ジェフリー・ディーヴァー