古本屋の覚え書き

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なぜ権力を書くのか?/『日本/権力構造の謎』カレル・ヴァン・ウォルフレン

 日本の言論界は眠っていた。ジャーナリストは前もって折ったペンで記事を綴っていた。ところが、カレル・ヴァン・ウォルフレンが投じた一石の音に慌てふためき、やっと目が覚めた。そう言ってもいいだろう。責任者のいない日本の権力構造を「システム」と名づけたのもこの人だった。


 決して面白い読み物ではない。だが、興味のある章だけでも読む価値がある。せめて、日本という島国で国民がどのように目隠しをされ、耳を塞がれているかを知ることが重要だ。


 本書の冒頭でカレル・ヴァン・ウォルフレンは烈々たる信条を述べる――

「なぜ権力を書くのか」と問われれば、こう答えよう。社会的制約を受ける人間の経験のなかで、心の最も奥深くまで達する営為について書こうとするのであれば、まず第一に書くべきはほかの何だというのか。物事について徹底的に考え始めたらすぐにも、我々は誰に、あるいは何に従うべきかという命題をさしおいて、根本的な問題は他にないことが明々白々になるはずである。この問いへの答えによって、私たちの社会生活は規定される。さらに、この問いにどう答えるかは、私たちが自分の思考や感情の意味をどうとらえ、構築していくかという問題と分かち難く結びついている。


【『日本/権力構造の謎』カレル・ヴァン・ウォルフレン/篠原勝訳(早川書房、1990年/ハヤカワ文庫、1994年)】


 中々書ける文章ではない。ヨーロッパの自立した知性であればこそ、日本の異様さを見抜けたものと想像する。


 権力とは、「相手を意のままにコントロールしようとする力」である。我が国には、“立場”という確固たる身分が存在する。配慮や思いやりが、損得勘定や駆け引きから行われることも珍しくない。政治の世界に存在するのは思惑だけだろう。いわゆる政治的判断というやつだ。


「ペンは剣よりも強し」という言葉があるが、本書を読まずしてその意味がわかるとは思えない。おかしなものに対して額(ぬか)づく国民性に、革命の衝撃を与える一書である。