・ピュタゴラスは鍛冶屋で和音を発見した
・ソフィー・ジェルマン
・川の長さは直線距離×3.14
・ピタゴラスの定理
・ピタゴラスの証明は二重の意味で重要だった
・図書室の一冊の雑誌をめぐる偶然の出会いが数学史を変えた
・ガロア
フェルマーの最終定理は、イギリスのアンドリュー・ワイルズによって証明された。1995年のこと。実に300年以上の長きにわたって、数学者を苦しめてきた計算になる。
何を隠そう、私もフェルマーの最終定理なる言葉は知っていたものの、中味はまったく知らなかった。多くの人々の心を捉えて離さなかったのは、あまりにも単純な式だったからだ。ピュタゴラスの定理において、3以上の乗数で成立する自然数は存在しないというもの。ワイルズは、10歳でフェルマーの最終定理と出会い、これに挑むことを決意する。
で、フェルマーの最終定理を理解させるために、サイモン・シンは、数学の歴史とエピソードをずらりと並べて読者を導いてくれる。これがまた面白いんだ。フェルマーそっちのけだよ。
イアンブリコスによれば、ピュタゴラスは即座に鍛冶屋に駆け込むと、ハンマーの音の響き合いを調べはじめた。そして、ほとんどのハンマーは同時に打ち鳴らされると調和する音を出すのに対して、ある一つのハンマーが加わったときだけは必ず不快な音になることに気づいたのである。彼はハンマーの重さを調べてみた。その結果、互いに調和し合う音を出すハンマー同士は、それぞれの重さのあいだに単純な数学的関係のあることがわかった――ハンマーの重さの比が簡単な値になっていたのだ。たとえば、あるハンマーの重さに対して、その2分の1、3分の2、4分の3などの重さを持つハンマーはいずれも調和する音を出す。一方、どのハンマーといっしょに叩いても不調和な音を出すハンマーは、ほかのハンマーと簡単な重さの比になっていなかったのだ。
こうしてピュタゴラスは、和音をもたらしているのは簡単な数比であることを発見した。科学者たちはイアンブリコスのこの記述に疑問を投げかけているけれども、ピュタゴラスが一本の弦の特性を調べ、音楽における数比の理論をリラに応用したのは確からしい。
【『フェルマーの最終定理 ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで』サイモン・シン(新潮社、2000年)】
和音を発見したのがピュタゴラスだってえのあ知っていたが、まさか鍛冶屋とはね。正直驚いた。「心地いい音だな」とは思っても、そこに規則性を見出すところが天才の天才たる所以(ゆえん)か。
ゲーデルの不完全性定理を知ってからというもの、数学本を読み漁っているのだが、詩的なまでの美しさに覆われているのが数学の世界だ。