古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

わずか9行で描かれる戦争と平和の物語/『石垣りん詩集』


「愛読書は石垣りんの詩集です」と語る女性がいれば、それだけで私はいっぺんに好きになってしまうことだろう。石垣りんの詩は、生活という大地にしっかりと足を下ろし、足の指が大地を鷲づかみにしているような力感に満ちている。そして、時にはこんな素敵な物語を紡ぎ出してくれる――

戦闘開始


 二つの国から飛び立った飛行機は
 同時刻に敵国上へ原子爆弾を落としました


 二つの国は壊滅しました


 生き残った者は世界中に
 二機の乗組員だけになりました


 彼らがどんなにかなしく
 またむつまじく暮したか――


 それは、ひょっとすると
 新しい神話になるかも知れません。


【『石垣りん詩集』(ハルキ文庫、1998年)】


 わずか9行で描かれる戦争と平和の物語だ。戦争という愚行を見事に表現しきっている。果たして人類は、たった二人だけになるまで戦争を続けるのだろうか?


石垣りん詩集 (ハルキ文庫)