古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

モンティ・ホール問題/『夜中に犬に起こった奇妙な事件』マーク・ハッドン

 ・モンティ・ホール問題
 ・なぜ夜空は暗いのか?

『くらやみの速さはどれくらい』エリザベス・ムーン
『ストーンサークルの殺人』M・W・クレイヴン

ミステリ&SF


 アスペルガー症候群発達障害)の少年が主人公。自閉的傾向はあるものの、IQはかなり高い。描かれているのは、「自閉症から見える世界」だ。視点を引っくり返す手法が、森達也のドキュメント映画『A』と似ている(※オウム真理教の側にカメラを置いた)。読んでいる間、価値観は逆転し、「普通」が「異質」となる。これがまた中々スリリングなんだよ。軽度発達障害に興味がある人なら、どんな専門書よりも本書が参考になると請け合っておこう。


 書くのをためらっている内に忙しくなってしまった。当初、モンティ・ホール問題を紹介して、口汚くサヴァント女史を罵った学者連中を見せしめにしてやろうと考えていた。


モンティ・ホール問題
モンティ・ホール問題


 ここで翻訳の問題が一つ。通常だと「マリリン・ヴォス・サヴァント(Marilyn Vos Savant)」と表記されているのだが、本書では「マリリン・フォス・サバント」となっている。ギョエテ=ゲーテじゃあるまいし、せめて人物名は出版界で統一してもらいたいものだ。

 おおぜいのひとが雑誌に手紙を出して、マリリン・フォス・サバントはまちがっているといってきた、彼女がなぜ自分は正しいか、とてもていねいに説明したにもかかわらず、その問題について彼女のところに送られた手紙の92パーセントは、彼女はまちがっているというもので、その手紙の多くは数学者や科学者からのものだった、ここに彼らの意見の一部をのせる。

 わたしは一般大衆の数学能力の欠如を非常に憂慮するものである。あなたの誤りを公表して事態を改善して下さい。

【ロバート・サックス博士、ジョージ・メイソン大学】


 わが国には数学に無知な人間がおおぜいいる。このうえ世界最高のIQの保持者まで無知であることを世界に知らしめる必要はない。恥を知りたまえ!


 すくなくとも3人の数学者に指摘されたにもかかわらず、自分の誤りに気づかないとはなんたることか。

【ケント・フォード、ディキンソン州立大学】


 あなたは高校生や大学生からたくさんの手紙を受け取ったことと思う。そのうちのいくつかの住所を書きとめておかれてはいかがでしょう。今後、コラムを書く際には彼らの助けが必要になるかもしれませんから。

【W・ロバート・スミス博士、ジョージア州立大学】


 あなたはぜったいにまちがっている……あなたの心を変えさせるのにいったい何人の怒れる数学者が必要なのでしょうか?

【E・レイ・ボボ博士、ジョージタウン大学】


 もしこれらの博士たちがみなまちがっているなどということがあるなら、この国に未来はないであろう。

【エベレット・ハーマン博士、アメリカ陸軍研究所】


 しかしマリリン・フォス・サバントは正しかったのです。そしてそのことを示すには二つの方法がある。


【『夜中に犬に起こった奇妙な事件』マーク・ハッドン/小尾芙佐訳(早川書房、2003年)】


 ところがちょっと困ったことが起きた。Wikipediaの記事に「彼女の答えは間違いではないものの、必ずしも完全な正解とも言えない」とあったためだ。


Wikipedia


 更に調べたところ、これに対して反論を述べているページも発見――


モンティ・ホール問題


 いやあ数学ってえのあ、奥が深いもんですな。私が身につけていた借り物の知識は翻弄されるのみ。


自閉症者の可能性/『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン
サヴァン症候群〜脅威の記憶力