古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

ハゲ頭に群がるカツラメーカー/『無資本主義商品論 金満大国の貧しきココロ』小田嶋隆



『我が心はICにあらず』小田嶋隆
『安全太郎の夜』小田嶋隆
『パソコンゲーマーは眠らない』小田嶋隆
『山手線膝栗毛』小田嶋隆
『仏の顔もサンドバッグ』小田嶋隆
『コンピュータ妄語録』小田嶋隆
『「ふへ」の国から ことばの解体新書』小田嶋隆

 ・『無資本主義商品論 金満大国の貧しきココロ』小田嶋隆

『罵詈罵詈 11人の説教強盗へ』小田嶋隆
『かくかく私価時価 無資本主義商品論 1997-2003』小田嶋隆
『イン・ヒズ・オウン・サイト ネット巌窟王の電脳日記ワールド』小田嶋隆
『テレビ標本箱』小田嶋隆
『テレビ救急箱』小田嶋隆


 コンプレックスを後ろ手に捻(ひね)り上げたような商売は多い。チビ・デブ・おたんこなす・ホクロ・ムダ毛・一重まぶた・ペチャパイ・口臭体臭・包茎・勃起不全など、数え上げればキリがない。そして、これらの筆頭格がハゲであることは衆目の一致するところだ。


 法改正によってサラ金が落ち目となってからというもの、テレビCMは、保険業界、パチンコ機器メーカー、日本中央競馬会JRA)、そしてカツラメーカーの台頭が目立っている。

 増毛200本が無料なのだそうだ。
 なぜか?
 技術に自信があるからだそうだ。
 技術? 何の技術だろう?
「サギだよ」
 と、彼は言い切った。
「考えてもみろよ、3倍増毛とか言って1本の自毛に2本からの人工毛をくくりつけるわけだろ?」
「ああ」
「とすると、毛が1本抜けると、3本の毛が減るわけで、こりゃ3倍減毛だぜ」
「なるほど」
「だから、ヘタなキャンペーンにひっかかって1回でも増毛したら最後、あとは、減毛増毛の無間地獄。まさに不毛の人生だな」
 そう。ヅラ屋は、メンテで儲けるのである。あれをもっともらしく保つには、色々と手間がかかるのだ。特に増毛と週刊誌のヘアヌード(←って、ハゲのことか?)ページは、一度手を出したら撤退できない底なし沼なのである。これは、カツラメーカー関係者からの情報だから間違いはない。
 シャブの売人をやってる兄ちゃんは、ハマる素人には、タダ同然でブツを世話して、相手がきちんとしたシャブ中になってからマジの取引を始めるんだそうだが、なんだか、昨今のヅラ屋さんたちがやっている「無料ヘアチェック」だとか、「無料増毛キャンペーン」の手口は、まったくこれと同じではないか。


【『無資本主義商品論 金満大国の貧しきココロ』小田嶋隆翔泳社、1995年)】


 いやあ笑った笑った。しかし、ハゲにとっては笑い事で済まない。大体、和田アキ子島田紳助が競演するCMは一体全体何なんだ? カツラ界の自民党でも気取っているのだろう。和田アキ子という女はどこにいようとも、まるで我が家にいるかの如くぞんざいに振る舞う。肥大しきった自我は、既に身長の3倍くらいの大きさとなっていることだろう。島田紳助は業界内の政治力に敏感な男だと私は睨んでいる。あの司会っぷりがそれを雄弁に物語っている。つまりこの二人は、私の眼からするとジャイアンスネ夫にしか見えないのだ。そして、例の社長が登場する。田舎のオジサンにしか見えない社長が。あの飄々とした朴訥(ぼくとつ)な話し方に、ハゲの面々はあっさりと騙されてしまうのだ。「こんないい人が嘘をつくはずがない」と。ところがどっこい、テレビという媒体は嘘で構成されているのだよ。すなわち全部が作り物。シナリオ通りに作られた編集済みの世界だ。


 本書は、全体的なまとまりとしては小田嶋隆のベストと言ってもいいと思う。バブルの前後にかけて連載されたもので、日本経済の天国と地獄に架けられた橋のような趣がある。しかも驚くべきことに、オダジマンの経済センスは、大新聞の経済記者よりも確かである。


消費を強制される社会/『浪費をつくり出す人々 パッカード著作集3』ヴァンス・パッカード