古本屋の覚え書き

「ただ独り、不確かな道を歩め」エリアス・カネッティ

霊界は「もちろんある」/『カミとヒトの解剖学』養老孟司

『唯脳論』養老孟司

 ・霊界は「もちろんある」
 ・夢は脳による創作
 ・神は頭の中にいる
 ・宗教の役割は脳機能の統合
 ・アナロジーは死の象徴化から始まった
 ・ヒトは「代理」を創案する動物=シンボルの発生
 ・自我と反応に関する覚え書き


 生と死、宗教にまつわるテキストが多い。文学論も少々。やはり脳科学は、唯物論よりも腰が強い、というのが率直な感想だ。「脳の機能」で割り切って考えているところが、養老孟司の痛快さでもあり危うさでもある。

 先生は霊界があると思いますか。そう尋ねる人が多い。そういう時には、「もちろんある」と胸を張って答える。そもそも「ない」ものについて語ることは不可能である。それなら、どこにありますか。頭の中にある。そう答えると、それは「ない」ということだと思うらしい。では聞くが、直線はどこにあるか。家の柱。では虫メガネを持ってきて柱を丁寧に観察する。とうてい直線とは言えない。デコボコしている。定規でまっすぐ線を引く。これは直線か。虫メガネで見たら、とてもそうは言えない。


【『カミとヒトの解剖学』養老孟司法蔵館、1992年/ちくま学芸文庫、2002年)】


 霊界なんぞあるわけがない。あるとすれば、今頃は蝉の霊でおおわらわになっていることだろう。「ゴキブリホイホイ」を製造しているアース製薬がゴキブリの霊に祟(たた)られたという話も聞いたことがない。


 それを「ある」と答えるところに、養老孟司のユニークさと性格の悪さが混在している。程度の低い迷信を、高度な問題に置き換えてから叩き落とす戦法だ。多分この頃、丹波哲郎の『大霊界』が流行っていたのだろう。


 この人の悪い癖で、時々文章がわかりにくくなるのだが、それを補ってあまりある刺激に満ちている。そして信仰を揶揄しながらも、決して宗教を否定しているわけではないのだ。唯脳論の立場からすれば、宗教もまた脳内から生まれたことになるわけだから、それも当然か。ベストセラーとなった『バカの壁』より、数十倍面白い。


平将門の亡霊を恐れる三井物産の役員/『スピリチュアリズム苫米地英人
霊は情報空間にしか存在しない/『洗脳護身術 日常からの覚醒、二十一世紀のサトリ修行と自己解放』苫米地英人
怨霊の祟り/『霊はあるか 科学の視点から』安斎育郎
・『落語的学問のすゝめ桂文珍
自我と反応に関する覚え書き/『カミとヒトの解剖学』 養老孟司、『無責任の構造 モラル・ハザードへの知的戦略』 岡本浩一、他
合理性と再現可能性/『科学の方法』中谷宇吉郎
『カミの人類学 不思議の場所をめぐって』岩田慶治