古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

セバスチャン・フィツェック、小田嶋隆


 1冊挫折、1冊読了。


ラジオ・キラー』セバスチャン・フィツェック/日高晤郎が薦めていたので読んでみたが30ページほどで挫けた。赤根洋子の翻訳がまるでダメだ。冒頭の4行に「彼」という文字が7回も出てくる。まるで、皿にへばり付いたしつこい脂みたいだ。忍耐力を総動員して読み続けたが、訳文の拙さを確認できただけだった。表紙の装丁も中途半端な漫画みたいでセンスがなさ過ぎる。本の作りも全くなってない。目次がないのだ。玄関がない家みたいだよ。ベランダから入れって言うのか? セバスチャン・フィツェックはドイツのホラー作家で、新進気鋭という形容詞を欲しいままにしているようだ。


テレビ救急箱小田嶋隆/こんなに面白いと、他の本が読めなくなって困る。昨日開いたと思ったら、もう読み終えてたよ。もっと時間をかけるべきだった。『テレビ標本箱』よりも脂が乗っている。適確な語彙(ごい)と絶妙な比喩がその辺のコラムニストを圧倒している。もうね、読んでいるだけで快感を覚えるようなテキストだ。後書きに「バンソウコウでできることは限られている」と書いているが、メスは深い部分にまで届いており、バンソウコウで止血することは無理だ。オダジマンが行っているのは一種の「瀉血(しゃけつ)療法」なのだ。メディアリテラシーのバイブルに君臨すべき一冊である。