古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

『穴 HOLES』ルイス・サッカー

 全米で350万部も売れたベストセラー。小中学生向けの作品。こういう本が読まれているのだから、やはりアメリカは侮れない。


 先祖代々不運に見舞われてきた家に生まれた主人公が、やはり不運によって少年院へ入る羽目となる。少年院は砂漠の真ん中にあり、毎日穴を掘る作業を命ぜられる。これがジャブとなっている。なぜ、穴を掘っているのかがわからないから、否応なく引きつけられてしまうのだ。


 カットバックで先祖の物語が加わり、重層的な展開となる。

 だが、そんな呪いの話など、エリャは気にもとめなかった。まだ15歳だ。「未来永劫」と言われたって、火曜日から1週間と言われたのと大差ない。それに、エリャはマダム・ゼローニが大好きだった。喜んで山へ連れていくつもりだった。


【『穴 HOLES』ルイス・サッカー/幸田敦子訳(講談社、1999年/講談社文庫、2006年)】


「呪い」というのは占い師の脅し文句だった。子供の気分を上手く捉えている。


 決して安易な成長譚ではない。主人公の少年はいじめられっ子で、最初から最後まで臆病なままだ。また、それほど荒唐無稽なストーリーでもなく、オチも予想がつく。それでも、この作品に引き込まれるのは、「物語の語り口」が優れているからだろう。落語のような味わい深さがある。