狙いはいいのだが、構成が悪い。ピラミッド型組織の弱さと、分散型ネットワーク組織の強さを検証している。クモは頭を潰せば死んでしまうが、ヒトデには脳がないため、どこを切っても生きている。
「スー族には、ある程度、中央集権的な政治制度があった。征服者に対して短い期間、見事に抵抗したけれど、実際には10年もたなかった。ところがアパッチ族は、何百年も征服されることなく戦い続けた」。アパッチ族が生きのびたのは、「政治権力を分散して、なるべく中央集権を避けていた」からだという。
アパッチ族には、他の部族における首長にあたる存在の代わりに、ナンタンと呼ばれる精神的および文化的な指導者がいた。ナンタンは行動で規範を示すだけで、他者に何かを強要する権限は持たなかった。部族のメンバーは、ナンタンに従いたいから従うのであって、強制されたからではない。史上最も有名なナンタンの一人が、アメリカ人を相手に何十年も部族を守ったジェロニモだった。ジェロニモは軍隊の指揮をとったわけではないが、彼が一人で戦い始めると、周囲の者もついて行った。「ジェロニモが武器を手にとって戦うのなら、たぶん、そうするのがいいんだろう。ジェロニモは今まで間違ったことがないから、今度も、彼といっしょに戦うのがいいだろう」というわけだ。ジェロニモについて行きたければついけ行けばいいし、いきたくなければ、行かなくていい。一人ひとりに権限があるので、それぞれがやりたいようにする。「するべきだ」という言葉はアパッチ族の言語に存在しない。「強制する」という概念は、彼らには理解しがたいものだ。
組織には必ず目的がある。何らかの利益を共有するために人々は集うのだ。本書では「緩やかな関係性」が色々と紹介されているが、さほど説得力はない。私の考えでは、ピラミッド型組織を否定するよりも、組織内を横断する様々な小ユニットを形成するのが好ましい。
そもそも資本主義社会において、「社長が儲からない」組織のあり方が、多くの人々にモチベーションを与えるはずもない。
ただし、党派性を超えたコミュニティが生まれなければ、社会が硬直化することは明らかだ。その意味で、何らかのヒントは与えてくれる。
・ジェロニモ
・アニミズムという物語性の復権/『ネイティヴ・アメリカンの教え』写真=エドワード・S・カーティス
・ベトナム戦争とサンドクリークの虐殺/『アメリカ・インディアン悲史』藤永茂
・自律型兵器の特徴は知能ではなく自由であること/『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』ポール・シャーレ