古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

『偽善系 やつらはヘンだ!』日垣隆

 日垣氏は『「買ってはいけない」は嘘である』で名を馳せた人物。左翼系人権派をこき下ろしたコラムが多いが、決して右寄りではない。ここがミソ。徹底した取材を基にして、「普通の感覚」で切り捨てている。後味が悪くないのはそのためだ。社会問題、少年法、裁判制度、100冊に及ぶ名著批判といった章立て。いずれも、専門家や識者が「議論のための屁理屈」をこねている姿を浮き彫りにしていて痛快。

 ルポルタージュの名作として不動の地位を得ている本多勝一中国の旅』(朝日新聞社、72年)も、ほとんどすべてが聞き書きで成り立っている。同書が、新聞記者に与えた深刻な影響を見逃すことはできない。『中国の旅』から学ぶものも私にはあったが、しかしその取材すべてが中国共産党中央委員会によってアレンジされたものだという事実は、断じて無視できないのである。
 その本多氏が、《ルポルタージュは、この作品によってはじまる》とまで絶賛するのは、ジョン・リード『世界をゆるがした十日間』(新日本出版社など、原書初版は19年)である。残念ながらこれは、ルポの弱点をすべて備えた今世紀最大の迷著の一つだ。
 英語版にはレーニンが、露語版にはクルプスカヤ(レーニンの妻)が序文を書いている。レーニンにべた惚れし、ロシア革命に心酔しきった著者の姿勢は、冷静さや客観性とは無縁である。いってみれば、ライフスペース高橋弘二氏が『サイババ伝』を書いたようなものだ。違いはといえば、後者ではサイババがお墨付きを与えていないということくらいだろう。
『世界をゆるがした十日間』が米国で刊行された1919年に、アメリ共産党が創立されている。その創始者の一人にジョン・リードが名を連ねているだけではない。レーニンの党からジョン・リードの党は、1921年に100万米ドルを秘密裏に受け取っている。ロシアでの彼の取材は、文字どおりの「お抱え取材」であり、豪華な住居と私用飛行機までクレムリンから与えられていた。