古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

『不肖・宮嶋 メディアのウソ、教えたる!』宮嶋茂樹

 報道カメラマンの宮嶋茂樹氏が、中学生向けにメディアリテラシーを説いた本。実にわかりやすく丁寧な文章が著者の人間性を表している。学校の先生は必読。中学の教科書に採用してもらいたいぐらいだ。巻末では、自分がカメラマンになった経緯を紹介し、将来の職業をどのように選択すればよいかまで書かれている。

 気をつけてください。メディアから発信される情報の「もっともらしさ」というのがクセモノなのです。
 テレビに顔を出してしゃべっている人の中には、ニュースキャスターとか、コメンテーターと言われている人たちがいます。
「人を人とも思わない凶行。このような凶悪な犯罪を許してはいけないと思います」
「犯人は死をもって償うしかないでしょう」
「被災者の住民のみなさんには、一日も早く立ち直ってほしいですね」
 そんなことを流暢(りゅうちょう)にしゃべっている人たちです。
 それはそれはごもっともなご意見です。文句も言えません。反論の余地がありません。
 でも、こういうことは若い皆さんでも思いつくような内容です。ほとんど意味のあることとは思えません。もっともらしすぎて、耳を傾けるのも損な気がしてきます。
「これからは同じことがくり返されないように、みんなで注意し合いましょう」というような発言は、学級会レベル。いや、学級会以下のコメントではないでしょうか。


 テレビ朝日なんぞは、あらゆる犯罪を「格差社会に結びつける」傾向がありますな。コメンテーターで反対意見を言ってるのは、私が知る限りでは橋下弁護士だけである。意見の良否はともかく、そうした姿勢が好ましい。


 タレント化が進んだ挙げ句、ニュースキャスターは感情的なコメントを発し、女子アナウンサーは正確な発音よりも容姿が重んじられるようになった。フジテレビの女子アナを見ると、私は吐き気を催す。若い内から、あれほどの“あざとさ”が身につくのだから、まともな世界じゃないだろう。もしも彼女達が、高額所得のタレントやスポーツ選手との結婚目当てで職業を選んだとすれば、長期的展望による売春行為と断じてよい。

(ニュースキャスターが)サーッとヘリコプターで飛んできて、快適なワゴン車で現場に乗りつけます。お付きの人をたくさん引き連れ、ワーッと現場を見て、そのまま嵐のように去っていく。お忙しいので仕方がありません。
 でもそんなふうに、ササーッと表面しか現場を見ていなかった人に限って、「現地で徹底取材した」なんてテレビで堂々と語っているわけです。
 私が同じ番組に出演したら、
「徹底取材って言うけど、あなた、現地にいたのはたったの1日だけやないか!」
「おまえが取材したわけやないやないか!」って、ツッコミ入れますが。
 現場で徹底した調査や取材ができないコンプレックスがあるから、あたかも徹底取材したように言いたがるのではないでしょうか。
 キャスターはキャスターとして、おとなしく、記者が書いた原稿を読んでいればいいのです。


 もう一つ――

 みの(もんた)さんは、ついその場の勢いで不二家をズバッ!と斬ってしまったのでしょうが、その根拠が捏造(ねつぞう)報道では、どうしようもありません。だいたい、朝から晩までスタジオにいるような人が、ズバッ!とニュースを斬れるだなんて、思い上がりです。現場も見ない、自分で調べもしない、スタッフから与えられた情報だけを頼りにズバズバものを言うから、ああいう間違いを起こすのです。

 古舘伊知郎氏には、放送作家が4人、スタイリスト、ヘアメークが1人ずつ、担当マネジャーが2人、広報が1人、付き人が2人の総勢11人が付いているそうだよ。ついでに言っておくと、私は筑紫哲也も嫌いだ。リベラルさを担保しようとするあまり、どっちつかずで何を言いたいんだかわからなくなることが多い。

 イスラエルとの国境付近では、イスラエルレバノンのテロ組織「ヒズボラ」が激しい戦闘をくり広げていました。
 その時、本当に危険な最前線にいた日本人ジャーナリストは、私を入れて3人だけでした。でも戦闘が終了すると、「そこにいた」というジャーナリストがたくさん出てくるのです


 これは知らなかった。アメリカも当然、メディアを利用している。しかももっと巧妙に。

 メディア側は公正中立な報道という看板を掲げていますが、あくまでそれは報道する側の理想でしかないのです。
 ニュースや報道番組が「真実」を放送していると、勝手に思い込むのもやめましょう。あくまで伝わってくる情報は、あなた自身が考えて結論を出すための「素材」ぐらいの役割しか果たさないのです。つまり、ひとりでじっくり考え、判断することが、情報に惑わされないための方法であると言えます。


 例えば、アフガニスタンで自動車が爆破されたとしよう。すると、犯人=テロリストという思考が自動的に働く。パブロフの犬さながらに我々は条件反射してしまうのだ。アフガニスタン政府がこの手を利用しないとは断言できない。


 大体ね、「テロとの戦い」なんて言葉は信用しちゃダメだよ。実際問題、大量破壊兵器を持っているのはアメリカなんだから。暴力団が拳銃を突きつけて、民間人からハサミを取り上げようとしているのが、アメリカの覇権主義の実態だ。


 メディアから垂れ流される情報は、全て意図が隠されている。しかも、許認可事業であるため、権力の言いなりになる傾向が顕著だ。


 日本は農耕民族型村社会であるがゆえに、「噂」という文化がある。そして噂話を鵜呑みにして、他人を白い目で黙って見つめる。村では一度レッテルを貼られると取り返しがつかない。