『傭兵の二千年史』菊池良生

 古代ギリシャ都市国家の軍隊は「市民軍」が中核であった。市民にとって兵役は直接税のようなもので、武器も装備も自弁で、都市の共同体成員としての無償の愛国的献身であった。少なくとも初期はそうだった。ところで、ここで言う市民とは、例えば都市国家アテネに住む住人すべてを指しているのではない。ある推計によると、前431年のアテネの人口は23万人とある。そのうち在留外国人が家族を含めて3万人、奴隷が8万人、そして市民とその家族が12万人となっている。仮に、一家族が平均4人とすれば市民と呼ばれるのは3万人ということになる。
 これが中小土地所有市民である。つまり市民とは土地の所有が許された人々のことをいう。しかも、その資格は良心がともにアテネ人でなければならない。それゆえ長らくアテネに住み、文化国家アテネの名を高からしめたあのアリストテレスですらついにアテネ市民とはなれなかったのである。
 このアテネ市民だけに兵役の義務がある。否、彼らだけにしか兵役資格がないと言ったほうがよいかも知れない。兵役は市民にとって自分たちのステータスを示す一種の誇りでもあったのだ。


 市民とは「citizen」のこと。「people」と違うのは、義務と権利があるところ。



傭兵の二千年史 (講談社現代新書)