古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

『女について』ショーペンハウエル:石井正、石井立訳

 解説があるという理由で、文庫化された作品を必ず買う人がいる。また、本を置くスペースを少しでも省くために買う人もおりますな。この場合、元々持っていたハードカバーは処分される羽目となる。集英社文庫などは、名の通った人物に解説を書かせている。


 解説やあとがきを最初に読む方も多いだろう。作品全体がそれとなく把握できますからな。但し、ミステリの場合を除く。


 思わぬ解説に出会うと、解説目当てで、ついつい買ってしまう本もある。小林秀雄の『モーツァルト』だったかは、妹の高見澤潤子の文章を拝借したものだったが、いたく感動した覚えがある。


 以下に紹介するのはショーペンハウエルの作品解説だが、大変、味わい深い内容だ。実際のページには、ショーペンハウエルの鼻から上の部分に当たる頭蓋が図示されている。

 この頭蓋をはじめて見たときに最も多く尊敬の念をおこさせるものは」そうグウィンネルは書いている、「いくぷん低めについている両耳の間におけるこの幅の広さである。長さと高さとほ幅に対抗しておおよそ等しいといってもよいほどに伸びなやんでいる……。もしも最初聖ミール・フシュケにょって試みられた脳の三つの大きな区分の意味づけが正しいものだとしたら、それによると感情の生活は前頂脳に、理知の生活は前頭脳に、そして意志の生活は後頭脳に、それぞれの中心点をもつといわれるから、そこでショーペンハウエルの頭蓋について頭蓋骨相学的な判断をしてみると、意志の領域が、感情や情緒の領域を超え、いやそればかりか、認識の領域をも越えて、断然たる優勢を示すという結果になる。頭蓋の三つの脊椎骨〔前頭骨と頭頂骨と後頭骨、ゲエテが脊椎動物の頭蓋構造は六つの脊椎骨から発達してきたという見解を発表しているのに拠る〕のすべてが、おおむね高度に作りあげられているのはもちろんのこと、しかも力と意志との領域の法外な発達は、この頭ろに、これをはじめて見た印象によると、それが或る学者のものとは思われないで、むしろ或る競技者のものかとも思われるはど、著しくそれ自らの差別を示す性格を与えている。このような力の充実、さらに進んで、過剰な力が強烈な知性のさきぶれをつとめていたことは、前方にもりあがった額のあたりの豊穣な発育をみれば、よくわかる。


ショーペンハウアー