古本屋の覚え書き

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年金問題のレトリック――衆愚の危険

 国会議員による「年金未納・未払い問題」がかまびすしい。ただでさえ、グリーンピア問題などで国民は感情的にならざるを得ない状況に追いやられている。マッチで火をつけておいて、ポンプから水を汲もうとする犯人はマスコミだ。


 テレビ朝日朝日新聞は、もう与党案に対するネガティブキャンペーンを張っているといっていいんじゃないか。


 問題を整理してみよう。「年金未納・未払い問題」というのは“支払い手続き”の問題である。


 これを混乱させているのは、未納・未払いが発覚した自民党議員の説明だ。曰く「制度が複雑過ぎる」。これは正確には、「年金制度」ではなく、「支払い手続き」がわかりにくい、というだけに過ぎない。


 国会議員には、国民年金の督促状から除外されている。また、国民年金の未納者でも以下は訪問徴収から除外されている。


・医師
・弁護士
・政治家
暴力団とその関係者


 つまり、取りやすいところからのみ、年金は徴収されているということだ。


 閣僚となった途端の未納が目立つが、これは、大臣になると身分が変わるため。


 大臣は「国会議員」ではなく、「国家公務員」となるのだ。


 こうしたことをゴチャゴチャにしながら、マスコミはただ、国民感情を扇動してみせる。


 もとより、与党による年金法案が完璧なものだとは思えない。しかしながら、テレビを始めとするマスメディアでは、与党案に対する賛否両論が全く示されることがない。


 ただ、否定的な論調を振りかざしながら、「一元化」という呪文を唱えて、あたかも民主党案に分があるように見せかける。


 もっと時間を掛けて論じるべきだ、という向きも多いが、このまま年金制度を改革しなければ、年間1兆円もの損失が出てしまう。


 現段階での一元化は無理だ。厚生年金は会社負担が50%となっている。これを個人事業主がどうやって負担するというのだ。試算によれば、最高で現在、支払っている国民年金の8倍の金額となる人も出るという。こうなれば、まず間違いなく、個人事業主による一揆が起こることだろう。


 また、民主党案による消費税の導入は、既に年金の支払いを終え、現在、受給されている方々にとっては、二重の負担となってしまうのだ。


 マスコミが焚きつけている情報の一つに、国民年金の未納者の占める割合が40%というのがある。しかしながら、年金全体から見れば5%に過ぎないのだ。これを声高に主張して、あたかも年金制度が崩壊するかの如き報道は、言語道断と言わざるを得ない。なぜなら、支払わない人々には給付されることがないのだから。


 感情の問題としては、理解できないでもない。だが、「年金を支払ってない議員に、年金法案を論じて欲しくない」という論理がまかり通るのであれば、「一度でも交通違をしたことのある議員は、交通法規法案について論じて欲しくない」ということになりかねない。決してそうではないはずだ。


 与党案だと、まるで掛け金が損をするような報じられ方をしているが、実際はそうではない。40年間支払って20年間給付を受ければ、掛け金の1.7倍がもらえる計算となるのだ。


 ブラウン菅の向こうで、好き勝手なことを言っている評論家が、あなたの老後を保証してくれる可能性は、万に一つもないことを理解すべきだろう。

追記


 英国の場合、年収87万3000円以下の人は、月額約1700円の掛け金で6万円の基礎年金がもらえる。


 しかしながら、英国の平均年収である440万円の収入の方だと、月額2万5000円以上の保険料を収めて、受け取る年金は月額6万6000円となる。


 部分的な情報に踊らされると、足元をすくわれてしまう。