古本屋の覚え書き

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イラク日本人人質事件

 テレビはこのニュースでもちきりだ。各メディアは人質となった時点で色めきたち、「自己責任」を突きつけては手を叩いているようにしか見えぬ。要は、騒ぎ立てる話題に事欠かなければ満足できるのだろう。そういう連中が垂れ流す情報を我々は受け取っていることを自覚すべきだ。


 外務省が彼等に請求した金額は、「帰国のための約198万円に東京からの帰郷時にかかった運賃を合わせ、総額約237万円(時事通信)」とのこと。


 米メディアでは「解放された人質はより大きな苦しみを味わっている」と相次いで報道。「AP通信は同日『人質に非難の嵐』との見出しで記事配信。3人が『政府の警告を無視した』『自衛隊を危険にさらした』理由で非難され『受刑者のように家に閉じこめられている』と伝えた。CNNテレビも『黄色いリボンはなかった』と放映した。タイムズ紙、AP通信とも『危険を恐れない国民がいることを日本人は誇りに思うべきだ』とのパウエル米国務長官発言を使って、日本人の反応に異議を唱えた。さらにタイムズ紙は『3人の罪はお上に盾突いたことだ』と分析。政府が言う“自己責任論”を『結局、政府に何も期待するなと言っていることと同じだ』と批判している(西日本新聞)」。


 帰国した彼等はバッシングにさらされ、PTSD心的外傷後ストレス障害)となった。更に追い討ちをかけるように、「自民党柏村武昭参院議員は26日の参院決算委員会で、イラクの日本人人質事件について『反日的分子のために数十億円もの血税を用いることに違和感、不快感を持たざるを得ない』と述べた(毎日新聞)」。これは、人質の中に共産党系と思われる人物がいるため。つまり、我が国では国民のために税金を使う場合、思想・信条によって差別をするということを表明したも同然であり、愚劣にもほどがある。


 外務省が金を請求したのは、彼等が再びイラクへ渡ることを防止する目的なのだろう。あたかも、解放された人質から身代金を奪うようで、滑稽極まりない。その意味でこの国家は、拉致を実行した犯人グループにも劣る存在といって構わないだろう。


 ジャーナリズムの二人が日本に帰ってきた時の映像を見た。駆け寄る老いた両親が、「イラクは危険過ぎる。もう行かないでおくれ」というようなことを言った。だが、息子は真っ向から異を唱えた。「僕の目の前で、多くの子供達が死んでいっているんだよ。何もしないわけにはいかない」と。確かこんな調子だったろう。間違ってたら、誰か訂正しておくんなせい。


 切り取られた場面ではあるが、これが今回の問題の象徴だと思う。つまり、可愛げがないということだ。彼等は、殺されかねない局面に自分がいたことを、どうも失念しているようだ。私が最も腑に落ちないのは、人質となった人々の誰一人として、犯人を非難してないことだ。彼等が実感をもって現実を受け入れることができないのは、テレビ社会の病弊としかいいようがない。


 しかしながら、「自己責任論」は結局、“死ね”と言っているのと同じだ。


 私は、国のやり方にも、人質の主張にも、バッシングする意見にも与(くみ)することができない。


 私の所感は、人質が解放されて、よかったよかった――以上である。この問題がどこかスッキリせず、何となく混乱させられるのは、マスコミが細部を取り上げ過ぎるのが原因だと考える。




 今日、人質となった内の2人が記者会見を行った。若い方は、病院から止められていたにもかかわらず、自らの意思で出てきたという。


 これによって、「可愛げのなさ」は10倍ぐらいになったんじゃないか? 若造は事もなげに「犯人グループに恨みはない」と断言。その上、あろうことか、「人質を取るといった形でしか表現できなかったのではないか」と、犯行グループの肩を持つ始末。これには、本当に参った。


 先に書いた文章の結論は変えたくないのだが、ちょっと考えざるを得なくなってきた。


 彼等は「分相応」という言葉を知らないようだ。誘拐後、殺害された外国人の家族の前で同じことを言ってみるがいい。


 人質は、命を助けられたことに感謝することもなく、自分達の政治的主張を声高に叫び始めた。


 マスコミ側が意図的に彼等の発言を部分的に繰り返すようなことになれば、彼等の信念はたやすく木っ端微塵となることだろう。


 あれが、自分以外の誰かの力で助けてもらった人間の態度とは到底、思えない。カメラの前に立たないよう強く望みたい。


 2004-04-30




 記者会見で澱(よど)みなく話していた未成年者は、何度も何度も練習をして臨んだという。そして、記者団からの質問には一切、答えない旨、徹底されていたそうだ。


 彼等のイラクに対する思いが本物であるならば、いっそのこと、イラクに今直ぐ送り返してはどうだろうか?


 2004-05-01