1988年に結成されたリンドバーグの7枚目のアルバム。リリースされたのは1994年。いつ購入したのか覚えてないが「清く正しく行こう」が聴きたくて買ったことを覚えている。私が持っているCD・レコードの中では最も明るい部類に入る。手持ちの物は暗いのが多いんだよねー。
バンド名は、プロペラ飛行機全盛時代に、自分で作った単発機・セントルイス号で一人大西洋無着陸飛行を成し遂げた郵便飛行士Charles Lindberghの名前を拝借している。
リード・ヴォーカルの渡瀬マキは1969年の早生まれだから、私と学年でいえば5年しか違わない。このアルバムを録音した当時は25歳ということになる。歌を聴く限りでは、もっと若いのかと思っていた。思春期の少女さながら、威勢の好さが全開である。声の単調さも何のその、赤毛のアンを思わせる短距離全力疾走型である。時折、街角で飛んだり跳ねたりしている子供がいる。見ているだけで、こっちまで楽しくなってくるような光景が繰り広げられる。そんな気分に極めて近い。
珍しい表現や、奇をてらったフレーズなどはどこにもない。歌詞も素直に心の内を解き放した自分の言葉で綴られている。
私の愛しの あの人に
およいだ視線 なげないでよ
そうね器量じゃ 負けてるかも
だけど女は 愛嬌とね 度胸だよ(「Cute or Beauty」)
全然 態度ちがうじゃない
猫なで声を ださないでよ
かき上げる長い髪は ないわ
だけど最後は アイディアとユーモアよ(同)
恋のライバルに真っ向から敵愾心(てきがいしん)を燃やす女の子だが、陰では「三度目だけど 一生のおねがい」を神様にしている。揺れる乙女心のバックではコミカルなギターが流れる。
彼氏が他の女の子とデートしているというニュースをキャッチ。現場を取り押さえようとスッピンのまま飛び出したのはいいがタクシーがつかまらない――
まずいよ暗いよ雨まで降ってきた
もう ここで53分立っている(「TAXI」)
これなんぞは大笑いしてしまう。歌の力み方が真に迫っているのだ。そうかと思えばこんな歌詞も出てくる。
退屈な毎日に きっとひそんでいる
希望の差し込む 窓がある
やがて髪は白く 階段きつくなっても
情熱の中で いつも生きていたい(「八月の鯨」)
足腰が弱まるという書き方をせずに「階段きつくなっても」としていることに注目したい。将来をも主観で捉えられるところに、人生に対する意欲的な態度が表出されている。
全曲オリジナルで歌詞は全て渡瀬が書いている。バンドでありながら控えめな演奏が歌詞を引き立てている。それは影が薄いのではなく、抑制された意志を感じさせるもので好ましい。リズムを心地好く奏でるバックの存在は、聴き込むごとに磐石の構えを見せる。
ライナーノーツに掲載されている渡瀬の写真は、ショート・カットで少年のような顔つきだ。歌声からもノンセクシュアルな印象を受けるが、時折、キラリと女を感じさせる片鱗が、これまた堪らない。
昨日より今日よりも明日こそ もっと 素敵になるために
あわてずに さわがずに 気取らずに そう 清く正しく行こう(「清く正しく行こう」)
昨日より今日よりも明日こそ もっと 綺麗になるために
水のように 月のように 空のように そう 清く正しく行こう(同)
率直でストレートなメッセージが、見えないところで手抜きばかりしている大人の心をミサイルのように直撃する。しかもこの後に奏でられるフレーズのわずかな部分が、久保田早紀の名曲「異邦人」のイントロと似ていて、エキゾチックな雰囲気を醸し出している。
どれをとってみてもシングル・カットが可能な曲ばかりで、隙のない仕事っぷりが見事。私の知っている限りでは、これほど完成度が高いアルバムは、忌野清志郎の『Memphis』ぐらいしか記憶にない。