大将軍アレキサンダー

 アレキサンダーが、宿敵であるペルシャ王の軍勢に打ち勝った直後のエピソード。


 アレキサンダーは何と敵の王の母親のもとに、すぐさま部下を送って丁重な伝言を届けたという。それは、子息である王が無事に生きていることを伝え、母親を安心させる内容であった。敵をも味方に変えゆく人格が神々しい。


 さらにその翌日のこと。アレキサンダーは一人の護衛官だけを連れて、適の王の母親を自ら訪ねた。二人が同じ服装をしているので、どちらがアレキサンダーかわからなかった母親は、護衛官の方に歩み寄り、ひざまずいて礼をした。間違いに気づいた母は、失態を恥じて身を引いてしまう。しかし、アレキサンダーは、その母に悠然と声を掛けた。


「お間違えになられたわけではありません。なぜなら、この男もまたアレキサンダーなのですから」


 母親への配慮もさることながら、共に戦った同志を思うこの一念が眩しい。皆、将軍、皆、英雄との心。気宇壮大なエピソードに心が震えてならない。 紀元前4世紀の話である。彼の人格が二千数百年を経て、私の心を直撃する。卒に将たるは易く、将に将たるは難(かた)しという。彼こそは将の中の大将軍といえよう。


 映画『スパルタカス』の名場面を思わせる鮮やかさは、生涯忘れることができないだろう。