古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

店主の呟き


 本を読まなくなった。本当に読まなくなったなあ。洒落を言ってるんじゃありませんぜ。20世紀最終年は何と3冊しか読んでいない。これで不具合があるかってえと、そう大した問題はない。ま、古書店主として当然蓄えておかねばならない知識は限られてくる。ただでさえ偏った読書傾向があるのだから、これはこれで致命的な問題かも知れぬ。ちなみに一昨年は100冊、その前の年は150冊読んでいる。幾ら何でも3冊はないよなー。小学校1年生以来にして最低記録である。


 二足の鞋(わらじ)を履いているせいもあるだろうが、心に余裕がない。忙しさにかまけて大切なことを忘れている証左だろう。「忙しい」も「忘れる」も“心を亡ぼす”と書く。書物と向かい合うことは、無知なる自己と向かい合う姿勢に他ならない。齢(よわい)37にして、緩やかな堕落の坂を下りつつあるような気がしてきた。


 誰しもが何らかの原点を持っているだろう。座標軸と言い換えてもよい。それによって今ある自分の位置を知り、ある時は軌道を修正し、またある時は成長の度合いを測る。私にとってはそれが読書なのだ。とはいうもののこの体(てい)たらく。


 希望としてはたくさんの本をよみたいのだが、本物の感動を与えてくれる一書と出会えれば本望である。どれほど多くの知人・友人がいたところで、つまらぬ人間ばかりであっては疲れるばかりであろう。本に関しても全く同様だ。本物というのは、さほど数は多くない。


 さて、内の棚には本物が何冊あることやら――。