古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

経済産業省と東京電力の癒着構造

 原子力行政をとりまく課題は根が深い。(中略)経産省は外局に資源エネルギー庁も抱え、原発推進の旗振り役になっている。いわば右手で原発を応援しながら、左手で規制監督していた格好だ。しかも、官僚OBの天下りを何人も電力業界に送り込んできた。


社説/東京新聞 2011-04-19

東日本大震災 世界が見たNIPPON












不幸と戯れる

 不幸と戯れることによってしか、不幸を克服することはできない。


【『蝿の苦しみ 断想』エリアス・カネッティ/青木隆嘉〈あおき・たかよし〉訳(法政大学出版局、1993年)】


蝿の苦しみ 断想

人間はあるがままの世界を認識できない−カント

 カントはあまりにも偉大な存在であった。彼以前の哲学はすべてのそのなかに流れこみ、彼以後の哲学はすべてそこから流れだす、カントはまさにそのような湖にもたとえられる近代哲学の祖なのである。
 彼は人間の認識を根底から変えた哲人だった。カントは自分の哲学を「コペルニクス的転換」と自負した。太陽が動いているのではない、地球がまわっているのだ、というコペルニクスの発見と同じように、カントは人間の認識というものは世界をありのまま写しとっているのではない、人間の感受性や悟性や理性がみずからの形式に従って対象を構成しているのだ、と断じたからである。したがって、人間はけっして世界をあるがままに認識できず、あるがままの世界は「物自体」として、人間の認識能力の彼方におかれる。カントが生涯をかけて探究しつづけたのは、そのような人間の理性の能力についての分析だった。人間の認識能力の限界を見きわめることだった。


【『生き方の研究』森本哲郎〈もりもと・てつろう〉(新潮選書、1987年)】


生き方の研究

東日本大震災:遺族支える「悲嘆ケア」

 東日本大震災で肉親らを亡くした遺族に遺体を引き渡す警察関係者が、遺族への心理的支援「グリーフケア」を取り入れる動きが出ている。過去の大惨事の中で、肉親を失ったストレスが長期にわたって遺族を苦しめた反省に立った取り組みだ。

安易に声かけせず、そっと寄り添う…遺体引き渡す警察官


 宮城県石巻市の遺体安置所。京都府警警務課の巽(たつみ)英人警部補(43)は、ひつぎのそばに立ちつくす男性を静かに見守っていた。もう15分になるだろうか。


 巽さんより5歳ほど年上の男性は、津波で母と妻を失った。ひつぎの中には数珠などが置かれた遺体袋が一つ。巽さんが袋を少し開けると捜し続けた顔がそこにあった。「ありがとうございます」。男性は短く言って頭を下げた。


 妻の着ていた冷たい服を手に、顔を見つめる男性のかけた眼鏡があふれる涙でくもり始めていく。そばに立つ巽さんは、のどまで出かかる慰めの言葉をのみ込んだ。訓練で学んだ言葉が頭に浮かぶ。「安易な声かけに傷つく人もいる。遺族のペースを最優先に。あくまで寄り添うことが大切だ」。発見された場所や状況、死因。遺族の疑問に正確に、分かりやすく答える。犠牲者の最期を知り、尊厳を持って見送ることは、遺族のケアの第一歩になるからだ。


「グリーフ」とは英語で「悲嘆」を意味する。配偶者、親、友人など大切な人を亡くすと、喪失感や自責の念、怒りやうつ状態などさまざまな精神的、身体的な症状が表れる。そうした大きな悲嘆に襲われている人に対する第三者によるサポートがグリーフケアだ。


 京都府警では今年1月17日、全国初のグリーフケアを取り入れた検視・引き渡し訓練を実施した。動揺する遺族役に警察官が対応するシミュレーション。前年までは引き渡し時の書類手続きなどに重点が置かれていた。担当者が医療関係者と話し合い「遺族の存在を考えた内容にしたい」と発案した。


 講師を務めたのは阪神大震災などの遺族ケアに当たってきた医療関係者の団体「日本DMORT研究会」(神戸市)の村上典子医師(神戸赤十字病院)。村上さんによると、これまでの災害では、行政や警察の説明が不十分だったり事務的だったりしたために、遺族の心に長期的な負担が残るケースがあったという。村上さんは「最初に接する警察が意識を持つことは長期のケアに役立つ」と話す。

見守り数年必要


 国立精神・神経医療研究センターの金吉晴・成人精神保健研究部長は、遺族の心が安定するためには住宅や仕事など日常生活を取り戻すことが欠かせず、数年にわたる見守りが必要だと指摘する。


 もう一つ村上さんがアドバイスしたのは、支援する警察官自身にかかるストレスへの配慮だ。震災直後の3月14日、初めて入った被災地で、巽さんは停電の中、日没まで無数の遺体と向き合い続けた。「自分の中にショックをため込まない」と決め、宿舎に戻ると意識的に同僚とその日に経験したことを話すようにしたという。


 東日本大震災で、これまでに遺体が遺族などに引き渡されたのは、岩手・宮城・福島の3県で1万2348人(15日現在)。石巻市の安置所で父親(73)の遺体を見つけた佐藤政晴さん(48)は「付き添いの警察官が本当に悔しそうな表情をしてくれていたのがありがたかった」と目を潤ませた。


 国立精神・神経医療研究センターのホームページでは、遺族と接する担当者に向けたマニュアルなどを公開している。


毎日jp 2011-04-16