古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

ヨーロッパの伝統においては、権力の正当性こそ中心的な問題

 ニッコロ・マキャヴェリが、同時代人からだけでなくその後も軽侮され続けたのは、権力の同義的な正当性に無関心だったからにすぎない。まさにそのゆえに、この良心的な人物は、ルネサンス期の腐敗した権謀の世界においてさえ精神的に堕落した者と見なされた。


 ヨーロッパの伝統においては、権力の正当性こそ中心的な問題である。なぜならば、この正当性の概念によってのみ、自由と平等あるいはかつて正義といわれていたものを、社会的、政治的な現実に結びつけることができるからである。そして自由と平等こそ、キリスト教伝来以来のヨーロッパにおいて、基本的な理念であり続けてきたものである。しかしファシズム全体主義においては、それも「ユダヤ自由主義」の嘲笑すべき遺物にすぎない。


【『ドラッカー名著集 9 「経済人」の終わり』P・F・ドラッカー/上田惇生〈うえだ・あつお〉訳(ダイヤモンド社、2007年/岩根忠訳、東洋経済新報社、1958年)】


ドラッカー名著集9 「経済人」の終わり

文字禍

 文字を覚える以前に比べて、職人は腕が鈍り、戦士は臆病になり、猟師は獅子を射損なふことが多くなった。(中島敦『文字禍』)


【『物語の哲学 柳田國男と歴史の発見』野家啓一〈のえ・けいいち〉(岩波書店、1996年/岩波現代文庫、2005年)】


物語の哲学 (岩波現代文庫) 中島敦 (ちくま日本文学 12)