古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

地球の未来

 私たちはそれぞれが役を演じている。しかしその役割は、実用的にもモラル的にも、それぞれが分離しているとする根本的仮定に基づいている。全体を念頭に入れて考えているのは誰だろうか。クリシュナムルティが示唆し、アルバート・ビグローが行動で示したような考え方、すなわち自分は全体と深くつながっているため、全体に対して責任を持ち、釈明すべき責任を負うのだという考えを私たちが認識するようになったら、世界はどのくらい好転するだろうか。


ウィンスロー・マイヤーズ

『対比列伝 ヒトラーとスターリン』アラン・ブロック/鈴木主税訳(草思社、2003年)



対比列伝ヒトラーとスターリン〈全三冊〉 第一巻 対比列伝ヒトラーとスターリン〈全三冊〉 第二巻 対比列伝ヒトラーとスターリン〈全三冊〉 第三巻

20世紀とは何だったのか 洞察に満ちた超弩級の歴史読み物


 独裁政治家としての二人の軌跡を対比しつつたどった初の試み。二人の出自から、ヒトラーの敗北、そして戦後のスターリンの死までを描く。膨大な資料をもとに臨場感に満ちたディテールを積み重ね、大冊ながら一気に読ませる面白さ。20世紀とはなんだったのかを知るために、真っ先に手にとるべき歴史書といえよう。

孤独が与える安らぎ

 あのガイドが言っていたとおり、山登りには遅すぎる季節だった。しかしなぜか気にはならなかった。自分はひとりきりで、ふたたび山の上にいる。孤独がどんなに安らぎを与えるものか、わたしは忘れていた。脚に、肺に、昔の力がよみがえる。冷たい風が全身を打ちすえる。55歳のわたしは、いまにも歓声をあげそうだった。喧騒もストレスも、何百万もの人々のうごめきも消えた。光も、味気ない都会の匂いも消えた。あんなにも長い間、あんなものに耐えていた自分は、気が狂っていたにちがいない。


【『鳥 デュ・モーリア傑作選』ダフネ・デュ・モーリア/務台夏子〈むたい・なつこ〉訳(創元推理文庫、2000年)】


鳥―デュ・モーリア傑作集 (創元推理文庫)

金子光晴の真骨頂

 じっさい、自伝的歴史エッセー『絶望の精神史』を読んでいると、金子光晴がたえず「世相の変転相」をみつめて、否、にらみつけて、目をそらすことがないのを感じさせられます。それをもっとも象徴的にしめすのは、この一冊の山場ともいえる関東大震災をめぐるくだりでしょう。(中略)
 金子光晴の真骨頂は、そうした「世相」のさらに向こうに、人々をおそった測りがたい失墜感を見通し、きっかりと明晰な理知で分析するところにあります。


【『〈〉が選んだ入門書』山村修ちくま新書、2006年)】


“狐”が選んだ入門書 (ちくま新書) 絶望の精神史 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)

大谷探検隊がブッダの住んでいた霊鷲山を発見した日


 今日は大谷光瑞率いる大谷探検隊がインドビハール州ラージギル郊外でブッダの住んでいた霊鷲山を発見した日(1903年)。数年後のインド考古局第3代目の長官ジョーン・マーシャルの調査によって国際的に承認された。同探検隊は更にマガダ国の首都王舎城を特定した。


大谷光瑞とアジア  知られざるアジア主義者の軌跡 大谷光瑞の生涯 (角川文庫)

マルティン・ニーメラーが生まれた日


 今日はマルティン・ニーメラーが生まれた日(1892年)。ナチ党が共産主義を攻撃したとき、私は自分が多少不安だったが、共産主義者でなかったから何もしなかった。ついでナチ党は社会主義者を攻撃した。私は前よりも不安だったが、社会主義者ではなかったから何もしなかった。ついで学校が、新聞が、ユダヤ人等々が攻撃された。私はずっと不安だったが、まだ何もしなかった。ナチ党はついに教会を攻撃した。私は牧師だったから行動した──しかし、それは遅すぎた。(「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき」)


〔新装版〕 現代政治の思想と行動


マルティン・ニーメラー その戦いの生涯


されど神の言は繋がれたるにあらず ダハウ獄窓説教