古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

霊よ、風となって私を吹き飛ばせ


 妻が自爆テロを実行した。それを知った夫の心情――

 交信してくる霊よ、にぎやかな霊よ、この家にとりつくがいい、願わくばすきまを拭き抜けていく風となり、あるいは窓を突き破るほどの嵐となって、私を遠く、うんと遠くまで吹き飛ばしてくれ。今の私の内臓をじわじわと蝕み、私の信じてきたものを壊し、私の心を重大な不安で脅かしているこの疑念から、遠く離れたところまで飛ばしてくれ……。


【『テロル』ヤスミナ・カドラ/藤本優子訳(早川書房、2007年)】


テロル (ハヤカワepiブック・プラネット)

一流メディアと三流週刊誌

 かつて、「この国の週刊誌の定冠詞はいつも“三流”だ」と言った人がいた。「一流」週刊誌など存在しないのだ、と。私もそう思う。報道される中身ではなく、メディアの形式で一流だの三流だのと区別をするならば、週刊誌はいつまでたっても報道機関として「三流」でしかないではないか。
 だが、この桶川の事件に関わってみて私の思ったことの一つは、その分類の弊害が如実に現れたのがこの事件だったのではないか、ということだ。官庁などが発表する「公的な」情報をそのまま流して「一流」と呼ばれることに甘んじているメディアの報道が、その情報源自身に具合が悪いことが起こったときどれだけ歪むか。情報源に間違った情報を流されたとき、「一流」メディアの強力な力がいかに多くのものを踏み潰すか。
 本書のもう一つの目的は、警察という公的な機関と、それに誘導された「一流」メディアが歪めた、この事件の本当の構図と被害者像を改めて伝えることにある。


【『遺言 桶川ストーカー殺人事件の深層』清水潔(新潮社、2000年/新潮文庫、2004年)】


遺言―桶川ストーカー殺人事件の深層 桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)
(※左が単行本、右が文庫本)