ジャコメッリは西暦2000年に75歳で死んだ。デジタルカメラが登場し、モノクロームフィルムがカメラ屋の店頭からほとんど姿を消し、世界が色で溢れかえる時代までかれは生きたが、しかし最後まで色をつかうことはなかった。実験的に試みたことすらあったかどうか。かくも色の氾濫する時代にあって、かれは頑固なまでにモノクロームにこだわり、白と黒の世界に「時間と死」を閉じこめつづけ、そうすることで「時間と死」を想像し思弁する自由をたもちつづけた。「時間と死」はジャコメッリにより息づいたのである。
【『私とマリオ・ジャコメッリ 〈生〉と〈死〉のあわいを見つめて』辺見庸〈へんみ・よう〉(NHK出版、2009年)】
カーリン・アルヴテーゲン
1冊読了。
131冊目『喪失』カーリン・アルヴテーゲン/柳沢由美子訳(小学館文庫、2004年)/北欧ミステリが熱いというので読んでみた。ドンピシャリの傑作。平日に読むのは避けるべき不眠本だ。主人公は32歳のホームレス女性である。元々は裕福な家庭で育ったのだが、母親から心理的虐待を受けて育った。この回想がストーリーと交互にカットバックで挿入されている。アルヴテーゲンは1965年スウェーデン生まれというから、あと20年くらいは書いてくれそうだ。私にとってはジェフリー・ディーヴァー以来のヒット。