古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

J.クリシュナムルティ


 1冊読了。


 117冊目『私は何も信じない クリシュナムルティ対談集』J.クリシュナムルティ/大野純一編訳(コスモス・ライブラリー、2000年)/『ツァイトガイスト』を観て、直ちに取り寄せた。静けさの中にも銅鑼(どら)のような響きを湛(たた)えた不思議な声。誰にでもわかるやさしい言葉で、人々の常識を打ち砕いている。クリシュナムルティの名前は知っていたが、まさかこれほどとは思わなかった。まあ、ぶったまげたよ。宗教でもなく哲学でもない。そして思想ですらないのかもしれない。「思念」というのが相応しいと思う。ブッダの対機説法を彷彿(ほうふつ)とさせる当意即妙の対話だ。クリシュムナルティは、思考を解体して自分自身の中に存在する真理を見よと教えている。「ただ、見よ」と。これこそ観心か。教義を否定し、グル(指導者)を否定し、組織を否定しながらも、彼の言葉は仏教そのものと感じてならなかった。衝撃の一冊である。尚、訳者による「あとがき」は、クリシュナムルティニューエイジのレベルに貶(おとし)めるもので、噴飯物という他ない。