古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

『明日の記憶』


 ご存じ、渡辺謙が原作に惚れ込んで制作された作品である。十日ほど前に、かみさんがレンタルしてきたものを見て、昨夜のテレビ放映も見た。書籍にせよ映画にせよ、傑作は何度見ても飽きることがない。


 これはね、凄いよ。渡辺謙樋口可南子の演技に釘付けとなることを請け合おう。二人の突出した演技力は、草野球チームの中に大リーグ選手が混じっているように感じたほどだ。大滝秀治ですら間抜けに見えた。娘役の吹石一恵が予想以上の好演。あとは、雑魚(ざこ)といっていいだろう。


 何はともあれ、渡辺謙樋口可南子の絡みが凄い。ただただ、「凄い」としか言いようがない。


「一生懸命つくりました」と言わんばかりの星空には辟易させられたが、そんなことは、あっさりと無視できる。


 ストーリーも大したことはない。誰もが予想できる展開だ。それでも感動できるのは、主役二人の演技もさることながら、絶妙なカット割りとBGMの効果を見逃せない。


 いつ、誰にでも起こりかねない恐怖が、普通の人々の生活のリズムに合わせて襲い掛かる。「悪くなる」ことが定められた運命を、強制的に見せられる羽目となる。


 渡辺謙はハリウッドでも活躍しているから、その演技力が抜きん出たものであることは、ある程度予想できた。しかし、樋口可南子がこれほど凄いたあ思わなかったよ。渡辺えり子とやり取りするシーンなど、完璧と言っていいだろう。


 ラストで、渡辺謙が若い頃と同じ科白を言う。樋口可南子が泣く。それは絶望の涙であると共に、二人の新たな出発を暗示していた。山間(やまあい)の吊り橋で、離れていた二人の距離が縮まる。そんな、さり気ない希望を込めて、この映画は終わる。