『ポストマン・ブルース』サブ監督


 B級映画の傑作である。邦画を見て快哉を叫んだのは和田誠監督のデビュー作『麻雀放浪記』以来だ。新世紀の初日に再びビデオで見た。


 郵便物を仕分けする業務が映し出される。全くやる気のない表情。シュコーン、シュコーンと振り分けられる郵便物。カットが替わり、台車を引きずる音。ウンザリした記憶が蘇る。これらの映像がが徐々に短いペースで交錯する。滑り出しで奏でられるのは、日常の隣合わせに存在する狂気――。


 平凡な郵便配達人である沢木(堤真一)が、高校時代の友人である野口(堀部圭亮)にハガキを届ける。部屋へ招き入れられた沢木が目にしたのは、詰められたばかりの小指だった。ここからの、やりとりが面白い。ここで笑えぬ人は、これ以上見ない方が賢明だろう。野口はまるで充実した肉体労働に従事しているかのように、ヤクザという仕事を自慢する。


 このシーンが全体の基調だ。異質な場面で常套句を使うことによって笑いを生んでいるのだ。


 野口を張っている刑事達がここで勘違いをする。沢木が郵便配達人を装った覚醒剤の運び屋であると。この辺りも大笑い。キャストが素晴らしいのだ。如何にもチンピラ、如何にも刑事といった印象の俳優達なのだ。


 刑事達はまるで迷宮入りの事件の謎を解いたかのような勘違いに取りつかれ、沢木に対してまで張り込みをするようになる。


 自宅へ帰り、呑んでいた沢木はビールが切れたことに気づく。その時、日常に潜んでいた狂気がムクムクと頭をもたげる。沢木は郵便物を引っくり返し、現金書留の封を切る。ビールを山ほど買ってくるなり、次々と郵便物を開封し出す。その中に、末期癌を患った少女(遠山景織子)が書いた手紙に目が止まった。少女を探し出し、淡い恋に陥る二人。そして、病院で知り合った、殺し屋ジョー。ジョーはまるでサラリーマンの悩みを打ち明けるようにして、沢木に心を打ち明ける。「殺し屋もさ、仕事がなくて大変なんだよ」などと。ここに挿入される「全国殺し屋選手権」エピソードがまた面白い。『レオン』や『恋する惑星』でお馴染みの殺し屋が登場する。


「私、いつ死ぬかわからないから今が一番大切なの。だから、約束はしないの」と語る少女に、沢木は敢えて約束をする。明日、3時に病院へ迎えにゆくから、と。そうこうしている内に、沢木は“連続バラバラ殺人事件”の犯人に仕立て上げられていた。恋物語から一転、ドタバタ・ブラックコメディに再び戻る。ここからの見せ所は自転車の力走。デビュー作『弾丸ランナー』で走りっ放しの映像を撮っていたサブ監督の腕が随分と鳴ったことだろう。


 沢木は少女との約束を守るため、ひた走る。そして、刑事を射殺したジョーも、幼馴染みの魚屋の自転車にまたがって走り出す。更に、沢木の全国指名手配を知った野口も、クリーニング屋の自転車を拝借して走り出す。


 ラストに向かって3人が肩を並べて走る姿は痛快だ。そして圧巻のラストシーン。余韻に浸(ひた)る間もなくエンドロールが躍る。その劇的な不条理はクエンティン・タランティーノを凌駕したと言っていいほどだ。


 結末がファンタジーっぽくて好みが分かれるところだろう。しかし、私は「約束を守った」という一点で密かな感動を抑えられなかった。


ポストマン・ブルース