書評:宗教

遺伝子工学の世界的権威が書いたスピリチュアル本/『人は何のために「祈る」のか 生命の遺伝子はその声を聴いている』村上和雄、棚次正和

微妙な本である。正確に表現すれば、「科学者の人生観を記したエッセイ」といったところ。何が微妙かというと、著者が科学を体現していながら内容が文芸に属するところだ。 狙いはいい。確かに「祈る」という宗教的感情は人類に共通するものであろう。一寸先…

大乗仏教の仏は“真実(リアリティ)の神話的投影”/『仏教は本当に意味があるのか』竹村牧男

案外知られていないと思われるが、実はブッダやイエスは著作を残していない。ソクラテスと孔子も同様。枢軸時代のメインキャストは一様に文字を残さなかった。 何といっても昔の話である。ブッダの生没年さえ定かではないのだ。当時のインドには歴史という考…

日常の重力=サンカーラ(パーリ語)、サンスカーラ(サンスクリット語)/『ブッダは歩むブッダは語る ほんとうの釈尊の姿そして宗教のあり方を問う』友岡雅弥

生き生きと躍動する「人間ブッダ」の姿が浮かび上がってくる。三十二相八十種好という化物じみた様相もなければ、仏像みたいな金ぴかの姿もない。ありのままのブッダは、ふてぶてしいまでに自分を信じ、人間を信頼した。それでいて、独善とは無縁であった。…

モルモン教の経典は矛盾だらけ/『信仰が人を殺すとき』ジョン・クラカワー

数年前のことだが近所に教会ができた。見るからに清々しいたたずまいで、垢抜けた瀟洒(しょうしゃ)な建物だった。最近になって気づいたのだが、実はモルモン教(正式名称は「末日聖徒イエス・キリスト教会」)だった。もちろん建物と教義は別であろう。だ…

コロンブスによる「人間」の発見/『聖書vs.世界史 キリスト教的歴史観とは何か』岡崎勝世

魔女狩りの環境要因/『魔女狩り』森島恒雄 コロンブスによる「人間」の発見 キリスト紀元の誕生は525年 「レメクはふたりの妻をめとった」 化け物とは理性を欠いた動物 世界の構造は一人の男によって変わった/『「私たちの世界」がキリスト教になったとき …

日本仏教は鎮護国家仏教として出発した/『鎌倉佛教 親鸞と道元と日蓮』戸頃重基

鎌倉仏教の3大スター親鸞・道元・日蓮の思想と生きざまを、やや批判的(あるいは学術的)に捉えた好著。タイトルの「仏教」がなぜ旧漢字なのかは不明。何の知識もない人が読むと、毒される可能性あり(笑)。仏教思想の俯瞰が巧みで、見識を感じさせる。 釈…

宗教とは「聖なるもの」と「俗なるもの」との相違を意識した合目的的な行為/『はじめてのインド哲学』立川武蔵

忙しくて書く時間がない。「忙=心を亡くす」――ウム、わかっている。わかっていながら忙しさにかまけているということは、2乗の加速度をつけて心が亡んでいるのだろう。今は5日の早朝だ。 現世拒否的態度の緩和とならんで、タントリズムの特性として、儀礼の…

インド、チベットに伝わるイッサ=イエス伝説/『イエスの失われた十七年』エリザベス・クレア・プロフェット

イエスの人生は13歳から30歳に至る記録がまったくないそうだ。キリスト教では「エジプトへ行っていた」としているらしいが何一つ証拠がないとのこと。ところがこの間、アジアへ行った形跡がある。過去に3人の人物がチベットで「イッサ=イエス」にまつわる経…

依法不依人/『仏教とキリスト教 イエスは釈迦である』堀堅士

宗教は人を殺す教え/『宗教の倒錯 ユダヤ教・イエス・キリスト教』上村静 インドのバラモン階級はアーリア人だった 依法不依人 偶然性/『宗教は必要か』バートランド・ラッセル キリスト教を知るための書籍 いやあ、たまげた。これほど興奮を掻(か)き立…

仏教はもっともドグマから遠い教え/『ブッダ入門』中村元

インディラ・ガンジーは、インド初代首相ネルーの娘。1984年、護衛兵をしていたシーク教徒の凶弾に斃(たお)れた。 私は、インドのインディラ・ガンジー首相がお亡くなりになる2週間ほど前に何度かお会いしました。ちょうどその時、「仏教および国民文化に…

日蓮の『立正安国論』/『鎌倉佛教 親鸞と道元と日蓮』戸頃重基

日蓮の思想は右翼に利用されてきた歴史がある。 ところで、北(一輝)、石原(莞爾)両者とも熱烈な日蓮信者であったわけだし、後述する井上日召も日蓮宗僧侶であった。日本の「右翼」とされる人物には日蓮信者が多い。 【昭和の右翼思想について】 我々は(…

龍樹、世親は『法華経』の本質をつかんでいない/『蓮と法華経 その精神と形成史を語る』松山俊太郎

龍樹、世親は『法華経』の本質をつかんでいない 『篦棒(ベラボー)な人々 戦後サブカルチャー偉人伝』竹熊健太郎 松山俊太郎はサンスクリット学者という立場で蓮の研究をしている人物。 Wikipedia 法華経とは妙法蓮華経の略であるが、この「蓮華」に関する…

恵まれた地位につく者すべてに定数がある/『折伏 創価学会の思想と行動』鶴見俊輔、森秀人、柳田邦夫、しまねきよし

『巷の神々』(『石原愼太郎の思想と行為 5 新宗教の黎明』)石原慎太郎 『対話 人間の原点』小谷喜美、石原慎太郎 恵まれた地位につく者すべてに定数がある 大衆運動という接点 『仮面を剥ぐ 文闘への招待』竹中労 『黒い手帖 創価学会「日本占領計画」の全…

「私」とは属性なのか?〜空の思想と唯名論/『空の思想史 原始仏教から日本近代へ』立川武蔵

「空」とは否定作業によって自己が新しくよみがえるプロセスの原動力 「私」とは属性なのか?〜空の思想と唯名論 枢軸時代の変化 「空」の語意 『世界の名著1 バラモン教典 原始仏典』長尾雅人責任編集 ここで展開されているのは初期仏教の「空」(くう)で…

インドのバラモン階級はアーリア人だった/『仏教とキリスト教 イエスは釈迦である』堀堅士

宗教は人を殺す教え/『宗教の倒錯 ユダヤ教・イエス・キリスト教』上村静 インドのバラモン階級はアーリア人だった 依法不依人 偶然性/『宗教は必要か』バートランド・ラッセル キリスト教を知るための書籍 「イエスは釈迦である」なんてタイトルを見てト…

仏教の変遷 インド〜中国〜日本/『最澄と空海 日本仏教思想の誕生』立川武蔵

鎌倉仏教に多大な影響を与えた最澄(伝教大師)と空海(弘法大師)。同時代を生き、共に唐の国で学んだ二人は、仏教界に革命を起こす。空海はともかく、最澄がこれほど密教の影響を受けていた事実を私は知らなかった。 また、インド、中国、日本を経て、仏教…

魔女は生木でゆっくりと焼かれた/『魔女狩り』森島恒雄

魔女は生木でゆっくりと焼かれた 魔女狩りの環境要因 魔女狩りの心情 12世紀にカトリック教会は異端審問を始める。教会に歯向かう者は叩き潰しておくに限るってわけだ。キリスト教における神は絶対的な存在である。人間は「神に似せてつくられた」存在であり…

霊は情報空間にしか存在しない/『洗脳護身術 日常からの覚醒、二十一世紀のサトリ修行と自己解放』苫米地英人

「霊魂シリーズ」第5弾。これで打ち止め。 苫米地英人は「認識された存在」として霊へのアプローチを試みている。認知科学の立場からすれば、幻聴・幻覚の類いであろうと、本人の脳が認識している以上、「存在するもの」と仮定する。 こうなると、霊はいない…

怨霊の祟り/『霊はあるか 科学の視点から』安斎育郎

科学の視点から霊の存在を検証している。まず冒頭で、霊視詐欺商法や心霊手術に騙された人々の被害状況が述べられている。霊の存在を信じる人達は、金がかかってしようがないね。まったくご苦労なこって。 一番興味深かったのは『医事新報』に掲載されたとい…

人を殺してはいけない理由/『ブッダは歩むブッダは語る ほんとうの釈尊の姿そして宗教のあり方を問う』友岡雅弥

【※本当は12月20日に書いているのだが、量が多くなってしまったため、翌日分とした】 オウム真理教が跋扈(ばっこ)し、酒鬼薔薇事件が世間を騒然とさせた直後から、「なぜ人を殺してはいけないのか?」という問いが子供達から発せられるようになった。 私に…

寺請制度が坊主を官僚に変えた/『庶民信仰の幻想』圭室文雄、宮田登

海老沢泰久の『青い空』に引用されていた一冊。そうでもなきゃ、こんな本を手に取ることはなかったことだろう。 日本人の精神風景を考える上で寺請制度は無視できない。ま、面倒だとは思うが、以下のテキストをよく読んでもらいたい。では、予習の時間だ―― …

ブッダが解決しようとした根本問題は「相互不信」/『ブッダは歩むブッダは語る ほんとうの釈尊の姿そして宗教のあり方を問う』友岡雅弥

思想とは生きるものである。いや違うな。反対だ。生きざまこそ思想である。そして、一人の偉大な人物の生きざまが語り伝えられる時、そこに論理という整合性が求められる。このようにして、思想は論理と化した挙げ句に教条主義へと変貌する。そして思想家は…

「空」とは否定作業によって自己が新しくよみがえるプロセスの原動力/『空の思想史 原始仏教から日本近代へ』立川武蔵

「空」とは否定作業によって自己が新しくよみがえるプロセスの原動力 「私」とは属性なのか?〜空の思想と唯名論 枢軸時代の変化 「空」の語意 『世界の名著1 バラモン教典 原始仏典』長尾雅人責任編集 仏教史を辿り、「空」の概念がどのように変質していっ…

開祖や教団の正統性に寄りかからない/『仏教は本当に意味があるのか』竹村牧男

大乗仏教運動の意味を思索し、捉え直そうとする内容。この姿勢がいい。 私は、その宗教の開祖であることだけをもって、あるいは教団の正統性だけをもって、無条件にその価値があるとは考えない。そういう考え方は、一種の権威主義であろうと思う。それ自身の…

数字のゼロが持つ意味/『人間ブッダ』田上太秀

「人間ブッダ」入門。さほど宗教色はない。いや、宗教色はもちろんあるのだが、宗派性がないというべきか。本書を読むと、驚くほど釈尊(=ブッダ)が常識や道理を重んじていた事実が窺える。 現代に生きる我々が読んでも、「フム、なるほど」と頷けること自…

モルモン教の創始者ジョセフ・スミスの素顔/『信仰が人を殺すとき』ジョン・クラカワー

正式名称は「末日聖徒イエス・キリスト教会」。「モルモン書」と呼ばれる預言書を信じるがゆえにモルモン教とも称されている。日本だけで、何と320もの教会がある。 アメリカで実際にあった事件を辿ったノンフィクション。妻と幼い娘を殺害したのは実の兄弟…

夢は脳による創作/『カミとヒトの解剖学』養老孟司

『唯脳論』養老孟司 霊界は「もちろんある」 夢は脳による創作 神は頭の中にいる 宗教の役割は脳機能の統合 アナロジーは死の象徴化から始まった ヒトは「代理」を創案する動物=シンボルの発生 自我と反応に関する覚え書き 脳が賑やかだ。もちろん私の脳で…

霊界は「もちろんある」/『カミとヒトの解剖学』養老孟司

『唯脳論』養老孟司 霊界は「もちろんある」 夢は脳による創作 神は頭の中にいる 宗教の役割は脳機能の統合 アナロジーは死の象徴化から始まった ヒトは「代理」を創案する動物=シンボルの発生 自我と反応に関する覚え書き 生と死、宗教にまつわるテキスト…

江原啓之はヒンドゥー教的カルト/『スピリチュアリズム』苫米地英人

タイトルは『スピリチュアリズム』となっているが、内容は「反スピリチュアリズム」。苫米地英人が警鐘を鳴らしているのは、「江原啓之を受け入れてしまう社会情況」に対してである。オウム後に現れたカマイタチといっていいだろう。 江原啓之氏などの言って…

イエスは“感謝の人”だった/『キリスト教思想への招待』田川建三

田川建三の威勢のよさは好きなんだが、論理の飛躍があるため、どうしても説教臭い印象を受けてしまう。また、同じ主張の繰り返しが目立ち、小うるせえ年寄りみたいだ。 古代人が、心をふるわせて、一つ一つの収穫のたびに、この自然をたまわったことについて…