古本屋の覚え書き

古い書評&今週の一曲

書籍情報

『遠い朝の本たち』須賀敦子(ちくま文庫、2001年)

人生が深いよろこびと数々の翳りに満ちたものだということを、まだ知らなかった遠い朝、「私」を魅了した数々の本たち。それは私の肉体の一部となり、精神の羅針盤となった──。一人の少女が大人になっていく過程で出会い、愛しんだ文学作品の数々を、記憶の…

『ルーマン 社会システム理論』ゲオルク・クニール、アルミン・ナセヒ/舘野受男、野崎和義、池田貞夫訳(新泉社、1995年)

ますます細分化していく社会の中で、全体をどうとらえるのか。広範な知の領域で論争を喚起し、また「難解さ」で知られるルーマンのシステム理論を分析、わかりやすく解説したはじめての書。システム理論のパラダイム転換を提起したルーマン理論の全体像を解…

『樹の花にて 装幀家の余白』菊地信義(白水Uブックス、2000年)

一冊の書物をめぐる装幀と読者との関係は「不安を渡る舟」に似ており、装幀家の使命は、その不安の表出としてのズレを読者に訴えることである。書物へと人を誘惑してやまない気鋭の装幀家が、多彩な表現に通底する透明な官能性と求心的感性の交差を造形の余…

『封神演義』安能務訳(講談社文庫、1988年)

商から周へ、中国ではいま易姓革命が始まろうとしている。名君紂王は妖妃妲己を迎えて以来、まったくの昏君(バカ皇帝)と化した。妲己、彼女はじつは、千年の齢を経た女狐の化身だったのだ。──軍師太公望(姜子牙)を擁する西岐軍と商軍の大殺戮戦。妖術玄…

『吉祥天女』吉田秋生(小学館文庫、1995年)

昔々、天女が地上に降り来たり、神官の息子と夫婦になった……。伝説的な由来をもつ叶家の娘・小夜子が街に帰ってきた。17歳。凄絶な美貌。地に囚われた自らの運命を呪う少女。そして転入先の高校には、叶家の財をねらう遠野家の暁と涼がいた。陰謀渦巻くこの…

『ネイティヴ・アメリカンの教え』エドワード・S・カーティス/井上篤夫訳(ランダムハウス講談社文庫、2007年)

E・S・カーティスの撮影したネイティヴ・アメリカンたちは、静かな威厳を漂わせ、高貴な品格を感じさせる。そして自然と共生してきた彼らの語る言葉は、素朴だが時に厳しく、叡知に溢れている。イメージと言葉が詩的に一体化し、精神的癒しに満ちた至玉の一…

『災害ユートピア なぜそのとき特別な共同体が立ち上るのか』レベッカ・ソルニット/高月園子訳(亜紀書房、2010年)

不幸のどん底にありながら、人は困っている人に手を差し伸べる。人々は喜々として自分のやれることに精を出す。見ず知らずの人間に食事や寝場所を与える。知らぬ間に話し合いのフォーラムができる……。なぜその“楽園”が日常に生かされることはないのか? 大爆…

『リハビリの夜(シリーズ ケアをひらく)』熊谷晋一郎(医学書院、2009年)

痛いのは困る。気持ちいいのがいい。 現役の小児科医にして脳性まひ当事者である著者は、あるとき「健常な動き」を目指すリハビリを諦めた。そして、《他者》や《モノ》との身体接触をたよりに「官能的」にみずからの運動を立ち上げてきた。リハビリキャンプ…

医学書院《シリーズ ケアをひらく》

『気持ちのいい看護』宮子あずさ(2000年) 『ケア学 越境するケアへ』広井良典(2000年) 『感情と看護 人とのかかわりを職業とすることの意味』武井麻子(2001年) 『あなたの知らない「家族」 遺された者の口からこぼれ落ちる13の物語』柳原清子(2001年…

『民間防衛 あらゆる危険から身をまもる』スイス政府編/原書房編集部訳(原書房、2003年)

続発する紛争やテロ…もはや日本も無関係ではいられない! 今日のこの世界は、何人の安全も保障していない。我々はどのようにして自分の身を守ればよいのか……スイス政府による国民ひとりひとりのためのプログラム。

『21世紀サバイバル・バイブル』柘植久慶(集英社文庫、2004年)

この一冊があなたの生命と財産を守る! 台風、地震、噴火などの天災。熊、猿などの動物被害。全てを焼き尽くす火災。マラリア、エボラ出血熱などの伝染病と風土病。航空機事故、鉄道事故、海難事故。強盗、通り魔、ストーカーなどの犯罪。カード詐欺、ネット…

『防災の決め手「災害エスノグラフィー」 阪神・淡路大震災秘められた証言』林春男、田中聡、重川希志依、NHK「阪神淡路大震災秘められた決断」制作班(NHK出版、2009年)

神阪・淡路大震災の後、防災の専門家たちが災害救援を行った神戸市職員から、30年間非公開を条件に、当時の活動や想いについて聞き取り調査を実施した。想像を絶するギリギリの決断と対応を迫られた人々の証言から、今後の災害への知恵と教訓を導き出す「災…

文庫化『寡黙なる巨人』多田富雄(集英社文庫、2010年)

国際的な免疫学者であり、能の創作や美術への造詣の深さでも知られた著者。01年に脳梗塞で倒れ、右半身麻痺や言語障害が残った。だが、強靭な精神で、深い絶望の淵から這い上がる。リハビリを続け、真剣に意識的に生きるうち、昔の自分の回復ではなく、内な…

『イェルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』ハンナ・アーレント/大久保和郎訳(みすず書房、1994年)

ナチの中心人物の1人、オットー・アドルフ・アイヒマンは、1960年5月ブエノス・アイレス近郊で逮捕され、61年4月エルサレムで裁判された。本書はその取材報告。1969年刊の新装版。 氏家法雄twilog アイヒマン

『広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由 フェルミのパラドックス』スティーヴン・ウェッブ/松浦俊輔訳(青土社、2004年)

宇宙がエイリアンだらけならみんなどこにいるの? 20世紀を代表する物理学者フェルミが提出したこのパラドックスを解決するために、宇宙論、物理学、生物学、数学、確率論から社会学、SF的想像力までを総動員し、宇宙と生命の謎へと挑む極上のサイエンス・エ…

『イエス』R・ブルトマン/川端純四郎、八木誠一訳(未來社、1963年)

非神話化提唱によって第二次大戦後の西欧精神界に衝撃を与えたイエス解釈で、イエスの教えを根底にある実存理解に還元し、生きることの実存的解釈を提示した問題のイエス書。

『バウッダ〔佛教〕』 中村元、三枝充悳(講談社学術文庫、2009年)

バウッダ──サンスクリット語で「仏の教えを信奉する人」の意である。2500年におよぶ歴史の中で、誤解と偏見に満ちた教学により誤伝されてきた釈尊の思想の壮大な全貌と、初期仏教の発生から大乗仏教、密教へと展開する過程を、膨大な経典群から探究。単なる…

『あきらめたから、生きられた 太平洋37日間漂流船長はなぜ生還できたのか』武智三繁(小学館、2001年)

2001年夏、繁栄丸船長・武智三繁はたった1人太平洋で遭難、37日間漂流し、救助された。武智は50歳、独身の出稼ぎ兼業の漁師である。彼はいかに肉体・精神の衰弱と孤独に耐え、生還したのか。本書は感動のドキュメンタリーにして、人間存在の限界状況から発し…

『認知行動療法』坂野雄二(日本評論社、1995年)

精神療法、臨床心理学の専門雑誌である『こころの科学』に93〜95年の間、12回に渡って連載された「認知行動療法入門」に加筆修正したもの。

『人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス』フロイト/中山元訳(光文社古典新訳文庫、2008年)

人間には戦争せざるをえない攻撃衝動があるのではないかというアインシュタインの問いに答えた表題の書簡と、自己破壊的な衝動を分析した「喪とメランコリー」、そして自我、超自我、エスの三つの審級で構成した局所論から新しい欲動論を展開する『精神分析…

『歴史とは何か』E・H・カー/清水幾太郎訳(岩波新書、1962年)

歴史とは現在と過去との対話である。現在に生きる私たちは、過去を主体的にとらえることなしに未来への展望をたてることはできない。複雑な諸要素がからみ合って動いていく現代では、過去を見る新しい眼が切実に求められている。歴史的事実とは、法則とは、…

『歴史とはなにか』岡田英弘(文春新書、2001年)

「新しい歴史教科書をつくる会」が編纂した中学教科書に、中国と韓国が強く反発している。今に始まったことではない。これまでにも、日本の閣僚が中国から「正しい歴史認識の欠如」を非難されて辞任に追い込まれることもあった。しかし、中・韓両国の主張、…

『仏教とはなにか その思想を検証する』大正大学仏教学科編(大法輪閣、1999年)

現代人の感受性、ものの見方考え方、文化等を形造ってきた仏教という悠久の思想の潮流。時代時代に宝石のような輝きを放ってきた仏教思想を、硯学を結集して解説。これから仏教思想を学ぶ人に最適の入門書。

『3つの原理 セックス・年齢・社会階層が未来を突き動かす』ローレンス・トーブ/神田昌典監修、金子宣子訳(ダイヤモンド社、2007年)

人類の歴史を動かしてきた大きな原理は、「性」「年齢」「社会階層」の変化である。本書は、この3つの原理にもとづく理論によって、人類の過去・現在・未来を大胆に分析し、予測する。本書を読むならば、われわれが現在目の前で感じている不条理を合理的に説…

『TPP亡国論』中野剛志(集英社新書、2011年)

TPP(環太平洋経済連携協定)参加の方針を突如打ち出し、「平成の開国を!」と喧伝する民主党政権。そして賛成一色に染まったマス・メディア。しかし、TPPの実態は日本の市場を米国に差し出すだけのもの。自由貿易で輸出が増えるどころか、デフレの深刻化を…

『日本のインテリジェンス機関』大森義夫(文春新書、2005年)

情報戦とは、砲弾なき知恵の闘い──。英にMI6、インドにRAWあり。主要各国の政策決定のベースには、それぞれのインテリジェンス機関が入手した独自の情報が存在する。日本はどうか。弱体な組織がバラバラに活動。これが現状だと著者。この国に漂う対米追随感…

『地雷を踏んだらサヨウナラ』一ノ瀬泰造(講談社文庫、1985年)

2000年正月映画『地雷を踏んだらサヨウナラ』原作。「アンコールワットを撮りたい、できればクメール・ルージュと一緒に。地雷の位置もわからず、行き当たりドッカンで、最短距離を狙っています……」。フリーの報道写真家として2年間、バングラデシュ、ベトナ…

『選択の科学』シーナ・アイエンガー/櫻井祐子訳(文藝春秋、2010年)

出身や生い立ちは選択を行う方法にどのような影響を与えるのか? 他人に選択を委ねた方がよい場合はあるのだろうか? 「選択」研究の第一人者が、約20年にわたる数々の研究成果や考察をまとめる。

『永遠の哲学 究極のリアリティ』オルダス・ハクスレー/中村保男訳(平河出版社、1988年)

自己とは何かを深く問い、究極のリアリティの直接体験をめざした「永遠の哲学者」達。本書は、古今東西の神秘思想家の心に残る章句をテーマごとに集め、ハクスレー自身の解説を加えた珠玉の箴言集である。

『ジーヴズの事件簿 P・G・ウッドハウス選集 1』P・G・ウッドハウス/岩永正勝、小山太一訳(文藝春秋、2005年)

世界中で愛され、古典探偵小説にも多大な影響を与えた巨匠ウッドハウス。第1巻には、天才執事ジーヴズが、若主人バーティを襲う難題を奇策の数々で見事に切り抜けてみせる機略縦横の活躍からよりぬいた傑作を収録。